5【演説全文】小泉進次郎氏 自民党総裁選挙2025

小泉進次郎です。私で最後ですからあと15分だけおつきあいいただければと思います。まず、少数与党として厳しい政治環境の中であっても、丁寧な国会運営と野党との対話を通じて政治を前に進めてこられた石破総理に心からの敬意を表したいと思います。本当にありがとうございます。

その上で、われわれに課せられている使命、それは自民党を立て直すこと。そしてここにいる全員で、みんなで立て直すことだと思います。そしてその立て直し、再建への道は国民の皆さんの中にある、私はそう考えています。自民党は保守政党として特定のイデオロギーや流行にとらわれることなく、国民の皆様の暮らしや思いの中にこの国の行く末を見いだしてきました。だからこそ歴史や伝統、家族のつながりを重んじ、地域で受け継がれてきた慣習や絆を尊重しつつ、同時に時代の変化に合わせて変わりゆく国民の思いを敏感に感じ取り、必要な改革を実行することで70年にわたって日本のかじ取りを託されてきました。しかし、私たち自民党は時として国民から遠ざかり、国民の思いに応えられなくなることで信頼が大きく揺らぐことがあります。
私が初当選した2009年の総選挙がまさにそういう時でした。私を含め当選できた新人は4人、全員の議席でも119人。野党に転落しました。私は初当選の直後、地元横須賀の選挙事務所で「解党的出直しが必要だ」と述べたことを、今でもはっきりと覚えています。あれから16年。再び解党的出直しが求められています。なぜわれわれは衆参両院で多数を失ったのか。自民党に足りなかったことは何だったのか。それは国民の声を聞く力、国民の皆さんの思いを感じ取る力ではなかったか。私はそう思います。今、国民の皆さんが感じている不安、それは物価高で生活が苦しい。老後の年金、医療、介護、福祉はどうなるんだろうか。外国人が増えて治安は大丈夫だろうか。まさに日々の生活に密着した不安です。国民が多くの不安を抱えているのに、自民党は国民の不安に向き合えていなかった。
2009年当時、いまと同じ解党的危機に直面した当時の谷垣総裁は、あえて自身の主張を抑え、党内融和を優先されました。そして国民の生の声を聞くため、「なまごえプロジェクト」を推進され、地方に何度も足を運び、少人数での車座対話を繰り返しました。初当選したばかりの私も谷垣総裁の方針に従って、地方を回り、国民の皆さまから厳しい声をいただきながら、どうすれば自民党を立て直せるか考え続けた日々でした。まさに自民党の再生の取り組みこそ、私の政治家としての原点です。あの時なぜ、自民党は復活できたのか。厳しい中にあっても全国各地の現場で歯を食いしばって、ともに再建に取り組んでくださった党員の皆さん、地方議員の皆さんがいたからです。そうした党員の皆さん、地方議員の皆さんをこれ以上裏切ることがないように、皆さん、ともに国民の声を聞き、国民の不安に向き合い、そして国民の求める安全と安心を実現する政党として、自民党を立て直していこうではありませんか。私はその先頭に立つ決意です。
私は今回新たな政策を華々しく打ち上げる前に、まずは国民の皆さんにお約束したこと、野党と合意したこと、国民が求めていること、それを一致団結、着実に実行することが信頼回復の唯一の道だと思います。もちろん自民党には、幅広いさまざまな考え方があります。今回の総裁選でも個別の政策をめぐって活発な議論が繰り広げられることでしょう。
しかし、このたびの総裁選に求められていることは、お互いの違いを競い合うことではなく、互いの共有しているものに目を向け、一致点を見いだし、着実に実行していくことではないでしょうか。
2009年から2012年までの3年間がまさにそうでした。野党になったあのときの自民党は、誰もがそれぞれの役割を果たそうと必死でした。1人で何役も仕事をし、もう1度、国民の皆さんの信頼を勝ち得ようと支え合い、助け合い、強大な与党と向き合っていました。当時、当選したばかりの私にも多くの役割が与えられ、1期生でもベテランでもみんなの距離が近かった。風通しがよかった。年功序列や期数主義をあまり感じることはありませんでした。いま再び自民党が1つとなって解党的出直しを実現できるのか。国民の皆さんは冷静に見ています。党内の争いにエネルギーを使うことなく、一致団結、ひたむきに働く。1期生も10期生も関係ありません。期数にかかわらず全員で役割と責任を果たしていこうではありませんか。自民党にはそれぞれの分野の第一人者がおられます。例えば、茂木候補は長らく経済政策をリードされてきました。高市候補はサイバーセキュリティーをライフワークの1つにされています。林候補は官房長官としてデジタルコンテンツ政策をはじめ、あらゆる政策に取り組まれてきましたし、小林候補は経済安全保障の専門家です。誰が総裁になっても、総裁選が終われば、みんなで国民のために、ひたむきに汗をかく。私は今回の総裁選を通じて、あの野党の時の谷垣総裁のように、自民党が1つにまとまれるように、全身全霊を尽くすことをお誓い申し上げます。

そのうえで簡潔に私の政策方針を述べさせていただきます。まず私が総裁として優先することは「物価高で生活が苦しい」という国民の皆様の切実な声に向き合い、国民の暮らしに安心と安定を取り戻すことです。自民党は常に経済最優先、国民の生活向上に最優先で取り組んできました。私もそこは変わりません。私の役割はデフレ時代の経済運営の常識の壁を打破し、インフレ時代の新たな経済運営を構築することです。そのための第1歩として、直ちに物価高対策を中心とする経済対策を検討し、その裏付けとなる補正予算を臨時国会に提出します。
物価高対策の検討にあたっては、国民の皆さんの声を丁寧に聞いてまいります。まず与野党で合意のあるガソリン暫定税率の廃止に取り組みます。またインフレ時代に対応して物価や賃金の上昇に合わせて基礎控除などを調整する仕組みの導入や、公的支出や公定価格の是正などを進めていきます。

これら以外にもあらゆる選択肢を排除せず、政党間の協議を真摯に進めてまいります。物価高対策の先には供給力・生産力の強化にも取り組まなければなりません。日本には世界に冠たるものづくりの基盤や高い技術力を誇る中小企業・小規模事業者が全国各地にあります。国家も積極的にリスクをとることで企業の大胆な投資を引き出し、官民連携で投資を増やします。そのために設備投資や研究開発促進のための減税も充実していきます。供給力・生産力の基盤は地方です。地方にヒト、モノ、カネを呼び込み、AI、半導体、量子、バイオ、日本の産業基盤を再生させることで消費も投資も拡大する、需要の供給も伸びる強い経済をつくっていきます。

そして地方の活性化、地方創生も強化してまいります。地方の津々浦々において脈々と受け継がれてきた暮らしが今後も守られ、地方に住み続けられるようにする。そのためには老朽化に直面している道路、上下水道、水利施設、医療や教育などの地方の生活、産業、安心を支えるインフラを守ります。

地方の雇用や産業、そしてコミュニティーを支える柱は農林水産業です。その基盤を守り抜くため棚田、家族経営、中山間地の農業を守ります。大規模化、集約化、スマート農業も進めます。

防災対策の強化も喫緊の課題です。石破総理の方針を引き継ぎ、専任の大臣のもとで十分なエキスパートと予算を有する防災庁を来年度に設立します。また首都直下地震や南海トラフ地震などに備えるため、東京一極集中の課題にも取り組んでまいります。

次に治安対策の強化です。今、一部の地域では外国人の不法就労や地域住民の皆さんとのあつれき、治安の悪化などにより、地域住民の皆さんの不安につながっている現実があります。こうした不安に向き合い、1つずつ問題を解決していきます。そのため外国人問題に関する司令塔機能を強化し、総合的な対策を進めていきます。

またトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)、ストーカー対策なども強化し、治安のいい日本を死守する決意です。

外交・安全保障については、厳しい国際情勢を前に3つの基軸で進めます。第1は、強い日本の実現です。防衛費対GDP比2%を着実に進めていきます。また民間企業の投資や技術を外交力として積極的に活用します。
第2は、日米同盟、同志国との連携拡大です。今後も日米同盟は日本外交の基軸です。トランプ大統領と信頼関係を築き、日米同盟を新たな高みに引き上げてまいります。日米を基軸にインドや豪州を含むクアッド、先進国のG7など、さまざまな枠組みも活用して多様な同志国連携を拡大します。そして米中対立の最前線において重要な役割を担う、日米韓、日韓の連携強化を進めていきます。
第3は、自由で開かれたインド太平洋の実現です。アジアで最古の民主主義国家であり、通商立国として発展してきたわが国として、自由や法の支配など普遍的価値の重要性を主張していきます。拉致問題の解決にも全力で取り組みます。すべての拉致被害者の一日も早いご帰国を実現すべく全力を尽くします。

こうした政策を前に進めていくにあたって、求められるのは政治の安定です。私たちは衆参両院において多数を持ち得ていません。こうした状況下においては、何よりも与野党の対話が求められます。今後、物価高対策や社会保障など国民の関心が高い政策について、野党に幅広く政策協議を呼びかけ、与野党合意を模索する努力を行います。その中で政策や理念の一致を慎重に見極めながら、政権の枠組みのあり方についても議論を深めていきます。

憲法改正についても与野党の議論を呼びかけてまいります。自民党は自衛隊の明記など4項目を提案しており、いずれも先送りできない課題です。私が先頭に立って与野党の議論を進めてまいります。

冒頭申し上げたように、与野党協議を円滑に進めていくためにも、自民党は1つのチームにまとまらなければなりません。今回の総裁選を、自民党再生に向けた新たな出発点にしようじゃありませんか。皆さん、われわれに課されている使命、それは自民党を立て直すこと。それもここにいる全員みんなで立て直すことです。ともに政治を前に、日本を前に進めていこうじゃありませんか。
どうぞご支援のほどよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。

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