3【演説全文】林芳正氏 自民党総裁選挙
林芳正でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
「実こそあれば今月今宵、一夜明ければみんな来る」。わが長州の、維新の偉人であった高杉晋作が、まさに今から挙兵という時に残した言葉であります。何も戦争をやろうというつもりはございませんけれども、今からの戦い、しっかりとこうした気持ちで政策を訴え、そしてお一人お一人の理解と共感を得て進んでいきたい。そういうふうに思っております。
そして、もう1つ「夜明け前が一番暗い」という言葉があります。私の好きな言葉であります。今、わが党を取り巻く状況。そしてもっと言えば、わが国を取り巻く状況。決して明るいものではない。そう感じます。夢や希望が持てるのかと、厳しい状況しか伝わってこない。そう感じます。しかし一方で、これだけの人材がいて、これだけの蓄積があって、ほかの国から訪れた人はみんな「治安がよくて、優しくてすばらしい国だ」と。うまく政策をつなぎ合わせて、そしてうまく運営していけば、まだまだ日本はやれる。そんな強い気持ちで、先頭に立ってこの国のかじ取りをさせていただきたい。そういう思いで立候補を決意させていただきました。
岸田政権、そして石破政権と2年にわたって官房長官を務めさせていただきました。中枢にいたものの責任、これを感じながらも、逆にこの経験を生かして、継承の中に変化、革新を求める。まさにわが党の綱領にある「秩序の中に進歩を求める」。こうした気持ちで政策を推し進めてまいりたいと思っております。
「林プラン」というのを、このあいだ記者会見で発表させていただきました。実質賃金を1%ずつ上昇させていく。これを定着をさせる。これをぜひ、やらしていただきたいと思います。アベノミクス。安倍総理、菅総理の時代に「やっとデフレではない」。そこまでもってきていただきました。そして岸田総理のもとで新しい資本主義をやって、賃金が今までにない上昇をみる。しかし同時にロシアのウクライナ侵略、これを契機として原油が上がる円安と相まって、いわばコストプッシュ型の物価高になった。賃金が上がって、みんながお買い物できて、そして物価が上がっていくという、ディマンドプル型の物価上昇に今回は残念ながらならなかった。これを実質賃金1%ということは物価よりも賃金が上がっていくと収入が上がっていくと、こういうことでございます。これに変えていって、われわれがかつて就職したときのように、そんなことを全然心配しなくてもよかった。そこまで最後はもっていきたいと、こういうふうに思っております。そのためには必要なのは成長戦略であります。
規制緩和をどんどんやって、そして「新古典派」と言われておりますけれども、市場原理でやってきた。リーマンショックになった。今、世界は次の資本主義を求めています。新しい資本主義、まさに官民協調して新しいビジネスをつくっていく。その1丁目1番地はGX=グリーントランスフォーメーションであります。かつては、地球温暖化対策はコストになると、経済にはブレーキがかかると言われていました。しかし、CO2を出さないエネルギーを開発していくことによって、これを逆手にとって商売にしていく。新しい成長のもとにしていく。そして官民協調をやっていくために、20兆円ものGX移行債、この枠を使って、一緒になって投資をやっていこうじゃないかと。自動車メーカー1社だけで水素自動車や新しい自動車の開発はできません。ガソリンスタンドの代わりにどういうネットワークをつくるのか、規格はどうするのか。官民が一緒になってシステム、ネットワークをつくっていく。これがまさに官民協調の新しい資本主義であります。
そしてAIを含むDX、まだまだやりようがあります。たった1時間前にオープンAIのクォンさん(ジェイソン・クォンCSO)が訪れられました。「まさに日本はどんどん投資をしたい国だ」と、「本国のアメリカに次いで投資をしたい国だ」と熱く語っていただきました。私から「ワット・ビット連携」、去年のこの総裁選で訴え、そして政策、今、石破政権の中でスタートをいたしました。このことのご説明をしたら関心を持っていただいて、「どういう企業にコンタクトしたらいいんだ」と、具体的な興味を持っていただきました。まさに世界が日本を見て、投資の対象として見て、GXやDX、これを進めていく。
そしてもう1つは、20年以上前から取り組んできたコンテンツ産業であります。あのころはまだ、コンテンツ産業といっても小さい産業であったかもしれない。しかし、この20年間でいろんな支援をして、今では堂々たる日本の基幹産業に成長をいたしました。外貨獲得高、輸出で半導体を抜く勢いであります。世界のキャラクタービジネスの収入のトップ10のうち5つは、ポケモンや鬼滅といった日本のキャラクターが占めている。そういう状況になりました。もっともっとクリエーターに利益を還元するためにガイドラインを作りました。岸田内閣で公正取引委員会に調査をしてもらって、このガイドラインが守られているかしっかりやると、この調査もすでに進んでおります。こうしたこと、そして海外展開を後押しすることによって、いま増えているデジタル赤字、これをなんとか減らしていく。これにもつなげていきたい。こういうふうに思っております。
そして賃上げするためには原資が必要です。中小企業・小規模事業の皆さまからは、「防衛的賃上げ」という言葉をよく聞きます。「なかなか手元に余裕ないんだけど、賃上げしないともうどんどん人が取られちゃうんだよね」と。こういう方がたくさんおられます。
転嫁をきちっとする。そして新しいビジネスに対する補助をする。「グローバルニッチトップ企業」というのがたくさんあります。地方にもそういう企業を中心としてネットワークをつくっていく。ありとあらゆることをやって、そしてこの関税の相談窓口、1000か所あります。いろんな悩みに関税を含めてお答えをして、政策の手当てをしていく。そういうことを通じて地方でも起業が起こる。またM&Aでもっともっと大きい賃金も払える企業になっていく。あらゆる手段を講じて「防衛的賃上げ」などという言葉がなくなるように政策を展開していきたいと、こういうふうに思っております。
ヨーロッパやアメリカで分断が起きている。バンス副大統領の自叙伝を読みますと、「おじいさんの世代からアメリカンドリーム、もうなかった」。こういうことが書いてありました。日本にこういうことを起こしてはいけない。
成長戦略とともに、公教育の充実が大事であります。文科大臣のときに作ったプランに従って1人1台端末を実現をいたしました。小学校の子どもの皆さんが社会に出るころに使えるノウハウ、そしてたくましく生きていく力、創造力やリーダーシップ、コミュニケーション力と、こういうものを教える仕組みをどんどん推進していきます。覚えるだけで試験を通っていたわれわれの世代はそうであったかもしれませんが、それではAIには勝てません。まさにつくりあげる能力、コミュニケーションする能力、共感を得る能力。人間にしかない、この能力を磨く公教育をさらに進めていきたいというふうに思っております。
そして地方創生、農林水産、防災いずれも大事な分野であります。需要に応じたコメの生産をしっかりとやっていく。それとともに麦、大豆。たくさん使っている、豆腐もしょうゆもビールも、輸入が8割を超えています。麦と大豆をしっかりと付加価値をつける形も入れながら、この国産率を上げていくことによって食料安全保障、しっかりと確保してまいります。
そして災害が後を絶ちません。昨年の総裁選挙でも能登の大雨で、私は災害対応で3日間総裁選挙を離脱せざるをえない状況がありました。災害がこれだけある中で、石破内閣において、この災害対応の予算を倍増し、そして来年度には防災庁をつくる。ここまで来ました。それぞれの災害の時に、いろんなノウハウを持っておられる方が散らばってしまうと。ノウハウをこの防災庁という仕組みの中にしっかりと持って、じゃあ次に何か起きた時に「今度はここが似てるよね」「ここは違うよね」と。それをしっかりと即座に反応して対応できる、これが防災庁であります。しっかりと進めていきたいというふうに思います。
そして、知事会の皆さんと懇談する機会がございました。石破総理肝煎りの昼食会であります。知事さんからいろんなお話がありましたけれども、共通して出たのは、地方税の偏在であります。どうしても収入が入ってこない。「国からの補助金は使いみちが決まっているよね」と。自分たちで工夫してやる財源、どうやってつくっていくのか、しっかりと考えてまいります。そして小さい自治体ほどそういう戦略をつくる人手が足りません。もうルーティンでいっぱいいっぱいです。「シンク・アンド・ドゥ・タンク」ということをやっている人がいらっしゃいます。「シティマネージャー」とも昔は言ってました。戦略や企画をつくって実行するところまで市町村をお助けをする。そんな組織をつくっていきたいと思っております。
そして郵便局のネットワークをしっかり活用して、行政の手助けをする。これを進めていくためにも郵政民営化法の改正、しっかり取り組んでいきたいと思います。
またユニバーサル・クレジット、日本版のユニバーサル・クレジットを提案しました。今までは手当、そして減税、給付、それぞれやってきました。家計簿をつける感覚で「入ってくる収入はこれだけ」「出ていく税金・保険料は、教育費はこれだけ」というのを、世帯別、そして子どもの数別、いろんなケースに分けて点数化をして、一番厳しい低所得・中所得の皆さまに給付を中心にやっていく。これがイギリスでやっているユニバーサル・クレジットであります。1年2年かけてでも、しっかりと設計をして、これをやっていって、ここからさらに収入の高いところに移っていただく。そのことによって分厚い中間層を日本に取り戻す、この政策をやりたいと思います。
そして団塊ジュニアがすでに後期高齢者になりつつあります。2040年代、それまでに強い経済と強い社会保障、これをしっかりとやっておかなければ間に合わなくなります。工程表をつくって取り組みます。
そして党の改革、ゼロからの再建です。発信力を、政調と、そして広報本部をつなげることによって、そしてDX人材をもっと強化することによって、SNSを使った発信を強化、政策をリアルタイムで発信したいと思います。そして、まさに谷垣総裁がやっておられた「なまごえ」、これをさらに強化するとともに、デジタルでプラットフォームをつくって、随時、どこからでもお声が聞ける仕組みを作りたいと思います。そして聞く力と発信する力をぐるぐる回して、「なるほどこういう政策はこういうことだね」「こういうことはできないかな」と声を聞く力を、さらに強め、政策を磨き上げます。
「夜明け前は一番暗い」。今の暗い時期を皆さまと共に乗り越えていきたい。林芳正、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。